大判例

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奈良地方裁判所 昭和57年(ワ)384号 判決

第一事件第二事件原告

丸谷幸代

右訴訟代理人

佐藤真理

吉田恒俊

相良博美

第一事件被告

南孝明

右訴訟代理人

小原望

叶智加羅

右訴訟復代理人

和田高明

第一事件被告

奈良市

右代表者市長

西田栄三

右訴訟代理人

田中幹夫

第一事件被告

株式会社新田設計

右代表者

佐々木誠

第一事件被告

新田土木工業株式会社

右代表者

新宅嶺一

第二事件被告

株式会社関西企業

右代表者

吉田レスター

右被告三名訴訟代理人

岸憲治

主文

一  被告南孝明及び同奈良市は、各自、原告に対し、金四七、七四四、三七八円及び内金四四、七四四、三七八円に対する昭和五五年六月一日から、内金三、〇〇〇、〇〇〇円に対する昭和六〇年二月五日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告南孝明及び同奈良市に対するその余の各請求並びに被告株式会社新田設計及び同新田土木工業株式会社に対する各請求をいずれも棄却する。

三  被告株式会社関西企業は、原告に対し、金一、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年六月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は、原告と被告南孝明、同奈良市及び同株式会社関西企業との間に生じた分は、これを一〇分し、その一を原告の、その余を被告南孝明、同奈良市及び同株式会社関西企業の負担とし、原告と被告株式会社新田設計及び新田土木工業株式会社との間に生じた分は、すべて原告の負担とする。

五  この判決は、第一、第三項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  第一事件について

1  請求の趣旨

(一) 被告らは各自、原告に対し、金五五、八四三、一九四円及び内金五二、八四三、一九四円に対する昭和五五年六月一日から、内金三、〇〇〇、〇〇〇円に対する昭和六〇年二月五日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。

(三) 仮執行の宣言

2  請求の趣旨に対する答弁(第一事件被告ら共通)

(一) 原告の各請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

二  第二事件について

1  請求の趣旨

(一) 主文第三項と同旨

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因(第一事件及び第二事件につき共通)

1  交通事故の発生

次のとおり交通事故が発生した。

(一) 日時 昭和五五年六月一日午前一一時五〇分頃

(二) 場所 奈良市佐紀町一九二九番地の一先奈良市道外環状線(以下、本件道路という)

(三) 加害車 普通乗用自動車(奈五五ゆ八三五二号、以下被告車という)

右運転者 被告 南 孝明

(四) 被害車 普通乗用自動車(奈五五ま九〇〇二号、以下原告車という)

右運転者 原 告

(五) 態様 被告南は、被告車を運転し、本件道路を東から西方に向け進行中、道路南側の造成地から流出した多量の土砂によつて生じた泥土の中を通過した際、車輪が滑走し操縦の自由を失い、折から前方道路左側に停車していた原告車の右側部に自車左前部を衝突させ、その衝撃により原告車の左側部に立つていた原告に同車を衝突させた。

2  責 任

(一) 被告南について

被告南は、被告車を所有するものであるところ、同車を運転して本件道路を進行中、前方道路上に南側造成地から流入した土砂によつて「ぬかるみ」ができているのを認めたのであるところ、このような箇所を髙速度で進行すると、泥土で車輪が滑走し操縦の自由を失うおそれがあるから、そのようなことのないように減速の措置をとるべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、同所の制限速度である時速五〇キロメートルを約三〇キロメートル超過する時速約八〇キロメートルで泥土内を進行したため、操縦の自由を失い原告車に衝突するに至つたものであるから、事故の発生につき過失がある。

被告南は、自賠法第三条の運行供用者として、又、民法第七〇九条の不法行為者として、損害賠償の責任がある。

(二) 被告奈良市について

被告奈良市は、本件道路を市道として管理しているものである。被告奈良市は、本件道路を常時良好な状態に保つよう維持し、一般交通に支障を及ぼさないように努めるべき義務があるところ、前記のように造成地から流出した土砂が、本件道路の西行車線を後記の如きぬかるみとなつて埋めつくし、交通の障害となる状況にあつたにもかかわらず、これを除去することなく、又、右警告のために何らかの標識を設けるなど適宜の措置をとることもなく、これを放置したため、本件事故を惹起せしめた。従つて、被告奈良市は、本件道路の管理に瑕疵があつたものであり、国賠法第二条により損害賠償の責任がある。

(三) 被告新田設計、同新田土木及び同関西企業について

被告新田設計、同新田土木及び同関西企業は、共同して本件事故現場の南西部において無許可で宅地造成を行つたが、同地は古都保存法による保存地域、風致地区に指定されているところから、奈良県より再三にわたり工事中止の行政指導を受けていたにもかかわらず、これを無視して工事を続行した。そして、被告らは、右工事を行うに当り、本件道路脇の傾斜地に土留め等の措置を何ら施さなかつたため、雨によつて大量の土砂を本件道路に流出させ、西行車線上に幅八・四メートル、長さ約三五メートル、深さ約一五センチメートルのぬかるみを生じさせ、本件事故を惹起させた。

被告らは、土砂流出の防止措置をとらなかつた点において過失があるから、民法第七〇九条の不法行為者として、若くは、右は工作物の設置保存の瑕疵に当るから同法第七一七条の工作物占有者として、損害賠償の責任がある。

3  損 害

(一) 受傷内容、治療経過等

右足関節開放性骨折、後頭部外傷Ⅲ型、視神経障害等

昭和五五年六月一日から同年一〇月二〇日まで 京都市伏見区内蘇生会病院入院治療

同年一〇月二三日から同年一二月二五日まで 同市伏見区内共和病院入院治療

昭和五六年四月七日から同年五月二八日まで 同病院入院治療

同年五月二九日から同年八月一九日まで 同病院通院治療

昭和五六年八月一九日 症状固定

(二) 損 害

(1) 看護費 金五七八、二〇七円

(イ) 職業的付添人の費用と交通費 金八三、四三一円

入院中、付添を必要とした期間は一四二日間であるが、そのうち一〇日間につき付添人を雇つた。

(ロ) 近親者の入院付添費 金四二八、七七六円

一日当り付添費三、二四八円として一三二日間の費用

(ハ) 近親者の通院付添費 金六六、〇〇〇円

一日当り付添費二、〇〇〇円として通院三三日間の費用

(2) 雑 費 金七七三、四〇〇円

(イ) 入院雑費 金二五八、〇〇〇円

一日当り一、〇〇〇円として入院二五八日間の費用

(ロ) 第一回手術後の装具代等 金二三五、九五〇円

第一回手術後の装具等に要した実費である。

(ハ) 第二回手術後の装具代等 金二七六、一五〇円

第二回手術後の装具代等に要した実費である。

(ニ) 後遺障害X線コピー代等

X線コピー等に要した実費である。

金三、三〇〇円

(3) 通院費 金三八四、二四五円

通院のために要したタクシー代、自家用自動車ガソリン代の実費である。

(4) 休業損害 金七〇八、三三八円

原告は、本件事故当時、奈良市大安寺西小学校の教員であつたが、本件受傷により勤務に就くことができなかつた。原告が、本件事故に遭わず、平常どおり勤務していたとすれば、昭和五五年六月一日から昭和五六年八月一九日までの分として支給されたであろう給料及び諸手当の額は三、三四九、四八六円であるところ、現実に支給された給料及び諸手当の額は二、六四一、一四八円であつた。両者の差額七〇八、三三八円が、原告の被つた休業損害となる。

(5) 逸失利益 金五六、八一五、六二九円

原告は、本件事故当時、前記小学校の教員であつたが、慣行による退職年限が来るまで教員として勤務する予定であつた。ところが、本件事故によつて歩行能力や視力が著しく低下する等の後遺障害を受け、教員としての職務を継続することが困難となり、昭和五六年一一月七日付で退職を余儀なくされた。後遺障害に伴う労働能力の喪失による逸失利益は次のとおりである。なお、原告の逸失利益の算定に当つては、原告が教育公務員の地位にあり、給与規定や昇給基準が確立されているのであるから、将来の昇給分を考慮すべきである。

(イ) 給与分関係 金五三、一四九、九九〇円

別紙逸失利益給与分計算表記載のとおり

現価は金五三、一四九、九九〇円となる。

算出の根拠は次のとおりである。

(い) 給与額については、別紙奈良県教育職給料表(三)による。

(ろ) 原告の教育公務員としての稼働年限は、慣行に従い六〇才に達する日(昭和八八年四月九日)の翌年三月三一日(昭和八九年三月三一日)までとする。それ以後の通常の稼働年限は、六七才までとする。その間の得べかりし収入額は、昭和五五年度賃金センサスの短大卒女子労働者の全国平均の収入額を基礎として算定する。

(は) 原告について本件事故による休職がなかつたものとして仮定し、原告の給料号俸は、昭和五六年四月一日時において二等級一〇号俸であつたものとみなす。

(に) 年収額(B)は、俸給月額(A)に一六・九三か月(月給一二か月分に夏季手当一・九一五か月分、冬季手当二・五一五か月分及び三月末手当〇・五か月分を加えたもの)を乗じて算出する。

ただし、昭和五六年一一月七日から昭和五七年三月末の欄(二八才の欄)は、昭和五六年一一月六日までの給料及び夏季手当は前記(4)の休業損害の分に当るので、これを控除し、七・八一五か月を乗じている。

(ほ) 原告の昇給については、別紙運用短縮表によつて、一七号俸、一九号俸、二六ないし三九号俸、特一ないし特五号俸については九か月昇給に短縮されるが、計算の便宜上、一二か月昇給と仮定して計算する。

(へ) 別紙計算表中の給料号俸に下線のあるものは、九か月昇給を示す。

(と) 右記(ほ)を考慮して給料号俸を適宜修正する。原則として、短縮分が一二か月に累積する毎に一号俸昇給させる。なお、別紙計算表中の給料号俸修正時期には印を示すものとする。

(ち) 労働能力喪失率は、原告の後遺障害等級が七級であるから、これを五六パーセントとする。

(ロ) 退職金分関係 金三、六六五、六三九円

算出の根拠は次のとおりである。

(い) 原告が、勤続三九年で慣例に従い奈良県教育委員会の勧奨により六〇才で退職するものとする。右六〇才の時には二号俸の特五の給与(ただし、教職調整額のみを含む)を受けているものと推定されるから、右給与額三四一、三二八円に別紙退職手当支給区分・支給割合表の勤続年数三九年の数値六九・三〇を乗ずると二三、六五四、〇三〇円となる。これが右退職時において推定される退職金である。

(ろ) 右は三三年後の額であるので、年五分の割合によりホフマン方式で中間利息を控除すると、現価は四、七二七、七九一円となる。

(は) 原告が退職金として受領済みの一、〇六二、一五二円を控除すると残は三、六六五、六三九円となる。

(6) 入通院慰藉料 金二、〇〇〇、〇〇〇円

入院二五八日(八・六か月)、通院一八六日(六・二か月)であつたので、その間の入通院慰藉料として右額が相当である。

(7) 後遺障害慰藉料 金七、五二四、〇〇〇円

後遺障害等級七級であるから、その慰藉料としては右額が相当である。

(8) 流産慰藉料 金一、〇〇〇、〇〇〇円

原告は、本件事故当時妊娠三か月であつたが、本件事故のため流産してしまい著しい精神的苦痛を被つた。これを慰藉するに足りる金額は右額を下らない。

(9) 文書料 金一二、〇〇〇円

本件事故関係の文書作成に要した実費である。

(10) 養育費 金七二二、四〇〇〇円

原告は、入院中、長女あづみの養育費として一日当り二、八〇〇円を要した。入院二五八日間の分として金七二二、四〇〇円の費用を要した。

(11) 家屋改造費 金一六五、〇〇〇円

原告は、本件事故により歩行能力が著しく低下したため、風呂、トイレ、階段に手すり設備を施した。これに要した費用である。

(12) 将来補助具の費用 金八八五、二八七円

原告は、本件受傷の結果、右足補助具を必要とする状況であるが、将来の分として、耐用年数五年、認定期間三九年として八回交換するとした場合に必要な費用の現価八八五、二八七円を請求する。

(13) 着衣損害 金八〇、〇〇〇円

本件受傷による出血により着衣を汚損し、かつ事故直後の応急処置のため医者が着衣を破つたことにより、着衣が使用不能となり廃棄した。このため、着衣の時価相当額金八〇、〇〇〇円の損失を被つた。

(14) 弁護士費用 金三、〇〇〇、〇〇〇円

事案の内容、請求額よりして、右額が相当である。

(15) 合 計 金七四、六四八、五〇六円

4  既払分 金一八、八〇五、三一二円

原告は、本件事故による損害につき、金一八、八〇五、三一二円の支払いを受けている。

右既払分を控除すると、原告の損害額は金五五、八四三、一九四円となる。

5  よつて、原告は、被告関西企業を除く爾余の被告らに対し、連帯して、損害金五五、八四三、一九四円及び弁護士費用分を除く内金五二、八四三、一九四円に対する不法行為の日である昭和五五年六月一日から、弁護士費用分に当る内金三、〇〇〇、〇〇〇円に対する不法行為の後である昭和六〇年二月五日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求め、被告関西企業に対し、爾余の被告らと連帯して、損害金一、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する不法行為の日の昭和五五年六月一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する答弁

一 被告南

1  認 否

(一) 請求の原因第一項は、認める。

(二) 同第二項は、被告南が被告車を保有していること、及び事故当日、被告車を運転して本件道路を進行中、前方道路上に南側造成地から流入した土地によつて「ぬかるみ」ができていたことは認めるが、本件事故の発生につき被告南に過失があつたとの点は否認する。

(三) 同第三項は、(1)ないし(4)は不知、(5)のうち、原告が本件事故当時、奈良市立大安寺西小学校の教員であつたこと、及び本件事故後に退職したことは認めるが、本件事故により退職を余儀なくされたとの主張は否認する。(6)は不知、(7)のうち、原告の後遺障害等級が七級相当と認めるが、その余は不知、(8)ないし(15)は不知。

(四) 同第四項は、認める。被告南は、原告の主張額以上に支払をしている。

(五) 同第五項は争う。

2  抗 弁

被告南は、原告に対し、本件事故による損害について、治療費として金六、八九八、六〇七円及び休業補償等として金一九、九一三、九二八円、合計金二六、八一二、五三五円を支払つている。

二 被告奈良市

1  認 否

(一) 請求の原因第一項は、原告主張の日時、場所において、被告南運転の被告車が原告車に衝突するという事故が発生したことは認めるが、その余の事故の具体的状況は不知。

(二) 同第二項(二)は、本件道路が市道であり、被告奈良市が本件道路の管理者であること、及び被告奈良市が一般的に本件道路を常時良好な状態に保つよう維持、管理すべき義務を有することは認めるが、その余は否認する。就中、流入土砂による泥土の範囲、被告奈良市の不作為と本件事故との因果関係、及び被告奈良市に国賠法第二条の責任があるとの点については否認する。

(三) 同第三項は不知。

(四) 同第四項は不知。

(五) 同第五項は争う。

2  主 張

(一) 本件道路上の原告主張の泥土は、道路南側の不法造成地から流出した土砂によつて生じたものであるが、不法造成を規制する監督官庁は奈良県であり被告奈良市としては不法造成についてこれを差し止める権限はない。被告奈良市としては土砂の流出を知つてからそれを排除するしか対処の方法はない。しかし、事故当日は日曜日であつて道路パトロールは行われず、更に一般市民からの通報も無かつたから、被告奈良市としては本件土砂の流出を知らなかつた。被告奈良市が、その管理する道路上の土砂や妨害物の存在を瞬時にして発見し、直ちにその排除措置をとることは不可能である。被告奈良市が、本件道路上における土砂の流入発生後直ちにこれを排除しなかつたからといつて、道路の管理に瑕疵があつたとはいえない。

(二) 本件事故は、被告南が、制限速度を守り、前方注視を怠らないという、自動車運転者としての注意義務を遵守していれば回避できた事故である。附近の造成地から土砂が大量に流出すること及びそのような道路を時速七〇キロメートルを超えて暴走する車があるなどは、道路管理者の予測範囲を超えるものである。

道路管理者としては、通常の運転技術を身につけた者の通常予測される交通方法による通行によつて発生するであろう事故に対処して道路管理を行えば足りるのであるが、本件事故は予測可能性がない場合であり、被告奈良市に管理の瑕疵による責任はない。

三  被告新田土木及び同新田設計

1  認 否

(一) 請求の原因第一項は、原告主張の日時、場所において、被告南運転の被告車が停車中の原告車に衝突するという事故が発生したことは認めるが、その余の事故の具体的状況は不知。

(二) 同第二項(三)は否認する。

(三) 同第三項は不知。

(四) 同第四項は不知。

(五) 同第五項は争う。

2  主 張

(一) 本件宅地造成工事は、被告関西企業が行つていたものであり、被告新田設計及び同新田土木がこれを行つていたものではない。被告新田設計及び同新田土木は、被告関西企業の奈良県に対する宅地造成関係の許可申請手続の代理人に過ぎない。

(二) 仮に、本件事故発生の状況が原告主張のとおりであるとしても、本件事故は被告南が暴走運転を行つていたことに起因するものであり、宅地造成地から流出した土砂によりぬかるみが生じていたことと本件事故との間には何ら因果関係がない。

四  被告関西企業

1  認 否

(一) 請求の原因第一項は、原告主張の日時、場所において、被告南運転の被告車が停車中の原告車に衝突するという事故が発生したことは認めるが、その余の事故の具体的状況は不知。

(二) 同第二項(三)は、被告関西企業が本件事故現場の南側において宅地造成工事を行つていたことは認めるがその余は否認する。

(三) 同第三項は不知。

(四) 同第四項は不知。

(五) 同第五項は争う。

2  主 張

本件事故は、被告南が暴走運転を行つていたことに起因するものであり、宅地造成地から流出した土砂によりぬかるみができていたことと本件事故との間には何ら因果関係がない。

三  被告らの主張に対する認否等

被告南の抗弁は認める。被告らのその余の主張はいずれも争う。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一本件事故の発生

原告主張の日時、場所において、被告南運転の被告車が停車中の原告車に衝突するという事故が発生したことは、当事者間に争いがない。

そして、〈証拠〉を総合すると、被告南は、前記日時頃、被告車を運転し、奈良県公安委員会が定めた最高速度五〇キロメートル毎時を超える時速七〇ないし八〇キロメートルの速度で、本件道路(西行車線)を東から西方に向け進行中、前方約一六〇メートルの道路上(南北に走る国道二四号線との交差点)に、前日の大雨のため道路南側の造成地から多量(約六トン)の土砂が流入して路面(西行車線)を掩つている(東西約二三メートル、南北約八・四メートル、深さ〇・一五メートル以上)のを認めたが、漫然同一速度で進行し右土砂内に進入、通過しようとしたところ、その直前になつて右土砂が泥土と化していて車輪が滑走する危険を感じ、急拠、制動措置をとつたが及ばず、操縦の自由を失い被告車を前方に蛇行、滑走させ、折から前方道路(前記交差点西方約四六・三メートルの地点)の左側に停車していた原告車の右側後部に被告車の左側前部を衝突させ、更にその衝撃により原告車のフロントガラスに付着した泥(原告車の右側を追越したダンプカーによつて跳ね飛ばされた泥)を拭うべく、同車の左側部と歩道の縁石の間に佇立していた原告に同車を衝突させ、同女をその場に転倒させたことが認められる。〈証拠〉中右認定に反する供述部分は、前掲証拠と対比してにわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

二責任

1  被告南について

(一)  被告南が被告車の保有者であることは、原告と被告南との間において争いがなく、〈証拠〉によれば、被告南は、当時、被告車を、勤務先である奈良市役所への通勤、その他自己のため運行の用に供していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  前叙認定の事故発生の具体的態様に徴すると、被告南は、本件道路を西進中、前方の交差点内に南側造成地から多量の土砂が流入して路面を掩つているのを認めたのであるが、このような箇所を高速度で進行すると、土砂で車輪が滑走し操縦の自由を失うおそれがあるから、直ちに減速して進行すべき義務があつたにもかかわらず、これを怠り漫然同一速度で進行し、右土砂内に進入しようとしたため、前叙認定の如き経過により本件事故を惹起せしめたものであるから、本件事故の発生につき被告南に過失があつたものというべきである。

(三)  従つて、被告南は、自賠法第三条の運行供用者として、又、民法第七〇九条の不法行為者として、本件損害の賠償をすべき責任があるといわねばならない。

2  被告奈良市について

本件道路が奈良市道であり、被告奈良市がその管理者であることは、原告と被告奈良市との間において争いがない。

また、本件事故当時、本件道路の西行車線の交差点上に前日の大雨により南側造成地から流出した多量の土砂が流入し、それが泥土となつて前叙の如き範囲で路面を掩い、あるいはこれを埋めており、車輛の交通の障害となる状況を呈していたことは前叙のとおりである。

そして、〈証拠〉によると、本件道路南側の宅地造成地は、奈良県風致地区条例等に違反する不法造成地であり、同県は施工業者に対し工事中止命令を出し、本件事故当時は工事が中止になつていたものであるが、本件事故現場付近は以前にも降雨があれば右造成地から土砂が流出し、低地となつている前記交差点内に流入して堆積することが再三あり、本件事故前の同年三月一日にも右造成地から土砂が流出し、本件道路の南側に流入し、側溝を埋め、水が路上に溢れ出て交通の支障となるおそれがあつたため、被告奈良市の土木管理センターにおいて右土砂を除去したことがあつたこと、本件事故の際には、雨が前々日の同年五月三〇日午後七時四〇分頃から三一日午前五時五〇分頃まで、同日午前六時四〇分頃から午前一一時二五分頃まで、同日午前一一時四〇分頃から午後一一時五〇分頃まで断続的に降り続き、三一日の降水量は二九ミリに達していたため、前叙の如く造成地から多量の土砂が流出し本件道路に流入したものであること、雨も事故発生の六月一日の早朝には上つていたから、被告奈良市としては、本件道路が前記の如く流入土砂によつて交通の支障のおそれを生ずることのある道路であるから、速やかに雨後の点検パトロールを行うべきであり、これを行つていれば前叙の如き交通に支障のある泥土が生じていることをたやすく発見することができた筈であるところ、右パトロールを全く行わなかつたため、右泥土の存在に気付かず、これを除去せず、又、警告標識の設置その他事故防止のための適宜な措置を講じなかつたため、前叙の経過により本件事故を惹起せしめるに至つたものと認められ、〈証拠〉中、右認定に反する供述部分は採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

しかして、道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めるべき義務があることは言うまでもないところであるが、以上の事実によれば、本件道路が、本件事故当時、道路として通常備えるべき安全性を欠いていたことは明らかであるところ、被告奈良市はこれを放置していたのであるから、本件道路の管理に瑕疵があつたものというべく、本件事故は右管理の瑕疵に起因するものと認めるのが相当である。

被告奈良市は、本件事故前において、本件道路に南側造成地から土砂が流入して泥土と化していることを発見し、直ちにその排除を行い、その他適宜の措置をとることが不可能であつた旨主張する。

しかし、前叙認定の事実に徴すると、被告奈良市が、雨後における道路点検パトロールを行つていさえすれば、右泥土の生じていることをたやすく発見し、本件事故発生時点以前において、泥土の除去その他事故防止のための適宜な措置をとることができたものと認められるのであり、被告奈良市の主張は当らない。又、パトロール態勢の不備その他予算措置の不足等による不可抗力の主張も採用し難い。

又、被告奈良市は、本件事故は専ら被告南の自動車運転者としての注意義務に対する懈怠に起因するものであり、被告奈良市の予測の範囲を超えるものである旨主張する。しかし、前叙認定の事故発生の経過に徴すると、被告奈良市の主張は当らない。

被告奈良市の主張はいずれも採用し難い。

右のとおりとすれば、被告奈良市は国賠法第二条により本件損害を賠償すべき責任があるといわねばならない。

3  被告新田土木及び同新田設計について

原告は、被告新田土木及び新田設計は、被告関西企業と共同して、本件道路南側の宅地造成工事を行つた旨主張する。

しかし、右主張事実を認めるに足る適確な証拠はない。却つて、〈証拠〉によると、被告新田設計は、本件道路南側の宅地造成現場が奈良県風致地区条例により風致地区に指定された規制区域内であることから、施主である被告関西企業に頼まれ、同被告の奈良県知事に対する右造成工事の許可申請手続の代理を行つたが、造成工事の施行自体には全く関与していないこと、又、被告新田土木は、同関西企業から右宅地造成工事を請負つたものではなく、造成工事には全く関与していないことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そうすると、原告の被告新田設計及び同新田土木の賠償責任に関する主張は理由がない。

(従つて、原告の被告新田設計及び同新田土木に対する本訴請求は、爾余の点について判断するまでもなく失当であるから、同被告らとの関係においては、爾余の点についての判断を省略する。)

4  被告関西企業について

被告関西企業が、本件事故当時、事故現場の南側において宅地造成工事を行つていたことは、原告と同被告との間において争いがない。

又、本件事故当時、前日の降雨のため、右宅地造成地から多量の土砂が流出し、本件道路の西行車線に流入し、それが泥土となつて前叙の如き範囲において路面を掩い埋め、車輛の交通の障害となる状況を呈していたことは、前叙認定のとおりである。

そして、〈証拠〉によると、被告関西企業は、昭和五四年九月頃から本件道路南側の山林を伐採して宅地を造成していたものであるが、右宅地造成工事を行うに際し、当該造成地の本件道路に面した傾斜地に土留め柵を設けるなどの土砂流出防止施設を設けていなかつたため、造成地から前記の如き土砂を流出せしめるに至つたものであることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

しかして、以上の事実によると、右宅地造成地は、自然の土地に人工を加えて作つたものであるから、いわゆる土地の工作物というべく、被告関西企業は、土地の工作物たる右造成地の占有者であり、かつ右造成地には、設置又は保存について瑕疵があつたものというべく、右瑕疵に起因して本件事故を惹起せしめたものと認めるのが相当である。

そうすると、被告関西企業は、民法第七一七条一項の土地の工作物の占有者として本件損害を賠償すべき責任があるものといわねばならない。

被告関西企業は、右宅地造成地の設置又は保存の瑕疵と本件事故との間には因果関係がない旨主張するけれども、前叙の本件事故に至る経過に徴すると、本件事故との間の右因果関係を否定することはできない。

三損害

1  受傷内容、治療経過等

〈証拠〉を総合すると、原告主張の受傷内容及び治療経過等を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

2  損害

(一)  看護費 金五四五、四三一円

(1) 職業的付添人の費用等金八三、四三一円

〈証拠〉によると、請求の原因第三項(二)、(1)、(イ)の職業的付添人の費用等に関する原告の主張を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(2) 近親者の入院付添費 金三九六、〇〇〇円

〈証拠〉によると、原告の入院中、付添看護を必要とした一四二日間のうち一三二日間は、原告の夫精次が付添つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかして、経験則によれば、当時、職業的付添人でない者の付添の費用は、一般に一日当り三、〇〇〇円を相当とするものであつたことが認められるところ、これによれば、右一三二日間の費用は金三九六、〇〇〇円となる。

(3) 近親者の通院付添費 金六六、〇〇〇円

〈証拠〉によると、請求の原因第三項(二)、(1)、(ハ)の近親者の通院付添費に関する原告の主張事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(二)  雑費 金七七三、三〇〇円

(1) 入院雑費 金二五八、〇〇〇円

原告は、前記のとおり、前後二五八日間にわたり入院して治療を受けたものであるが、入院中各種の日用の雑費を必要としたであろうことは推測に難くなく、その費用として、当時平均して一日当り一、〇〇〇円程度を要したであろうことは経験則上明らかである。

以上の合計は金二五八、〇〇〇円となる。

(2) 第一、第二回手術後の各装具代等及び後遺障害X線コピー代等 合計金五一五、四〇〇円

〈証拠〉によると、請求の原因第三項(二)、(2)、(ロ)ないし(ニ)の第一、第二回手術後の各装具代等及び後遺障害X線コピー代等に関する原告の主張事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。すなわち各費用は次のとおりである。

第一回手術後の装具代等 金二三五、九五〇円

第二回手術後の装具代等 金二七六、一五〇円

後遺障害X線コピー代等 金三、三〇〇円

(三)  通院費 金三八四、二四五円

〈証拠〉によると、請求の原因第三項(二)、(3)の通院費に関する原告の主張事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(四)  休業損害 金七〇八、三三八円

〈証拠〉によると、原告は、昭和五五年四月一日から奈良市立大安寺西小学校教諭として勤務していたものであるが、本件事故による受傷のため右勤務に就くことができなくなり、同年七月一日から同年一二月二日まで特別休暇扱いとなり、続いて同年一二月三日から翌五六年一一月六日まで休職するのやむなきに至つた。そしてその間昭和五五年六月一日から翌五六年八月一九日までの給料その他諸手当等合計金二、六四一、一四八円の支給を受けたこと、そして右休暇及び休職がなく正常に勤務したと仮定した場合に原告が支給を受けたであろう給料その他諸手当等は合計金三、三四九、四八六円となることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

そうすると、事故日の昭和五五年六月一日から昭和五六年八月一九日までの間に、本件事故がなければ本来支給されたであろう給料等と右期間中に現実に支給された給料等の差額金七〇八、三三八円が右期間中における休業損害となることは明らかである。

(五)  逸失利益 金五一、九六二、二〇五円

〈証拠〉を総合すると、原告は、前記のとおり、本件事故当時、奈良市立大安寺西小学校の教諭として勤務していたものであるが、特段の事情がない限り、後記のとおり慣行による退職年限が来るまでは教員として勤務することが可能であり、その意思も有していたこと、ところが、本件事故により、前叙のとおり、視力障害や歩行能力の低下を来たし勤務に支障を生ずるようになつたこと、特に小学校教育においては、授業中は起立を原則としており、机間巡視指導も不可欠であり、体育学習、校外学習、遠足の引率も行わねばならないところから、これらの諸点において重大な支障を生じたこと、そして原告は、職務の遂行、継続が困難となつたため、昭和五六年一一月七日付で退職を余儀なくされたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(イ)  給与分関係 金四八、二九六、五六六円

〈証拠〉を総合すると、給与額については、給与規定として奈良県教育委員会の定めた別紙教育職給料表(三)があり、又、昇給基準については同委員会の定めた別紙運用短縮表があり、これらによれば原告が退職することなく教育公務員として勤務を継続した場合における、将来の昇給に伴う給料額を推測することができること、原告について本件事故による休職がなかつたとした場合、原告の給料号俸は、昭和五六年四月一日時において二等級一〇号俸とみなすことができること、昭和五五年七月から昭和五六年四月の間において、六月期(夏季)には期末手当として一・四か月、勤勉手当として〇・五一五か月、合計一・九一五か月分、一二月期(冬季)には期末手当として一・九か月、勤勉手当として〇・六一五か月、合計二・五一五か月分、三月期には期末手当として〇・五か月分が支給されていたこと、従つて給料年額は給料月額に一六・九三を乗ずれば算出できること、奈良県においては、原告の如き教育公務員は、県教育委員会の勧奨により六〇才に達した日(原告については昭和八八年四月九日)の翌年の三月三一日(原告については昭和八九年三月三一日)に退職するのが慣行となつていたこと、そこで右各事実を基礎とし、原告主張の計算方式に従い、給与号俸、月額(A)、年収額(B)、ホフマン方式により年五分の中間利息を控除した後の年収現価(D)等を算出すると、別紙逸失利益給与分計算表のとおりになること(ただし、退職後の昭和九〇年以降の分を除く)、大要、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実によると、昭和九〇年以降の分を除く年収額の現価は、金八六、二四三、八六九円となるところ、原告の後遺障害等級は七級であると認められるから、前叙認定の如き原告の職種等を勘案すると、労働能力の喪失割合は五六パーセント程度とするのが相当である。

そうすると、労働能力の喪失による得べかりし利益の逸失分は、次のとおり金四八、二九六、五六六円となる

86,243,869円×0.56=48,296,566円

ところで、原告は、慣行による退職後の稼働年限に対応する収入額があるとして、これを基礎として得べかりし利益の喪失を主張する。

しかしながら、通常予定された退職時(いわゆる定年)まで勤務した女子が、退職後に六〇才を超えて再び稼働するであろうとの蓋然性は極めて薄いものというべきであるから、右主張は採用し難い。

(ロ) 退職金分関係 金三、六六五、六三九円

〈証拠〉によると、原告が勤続三九年で慣例に従い奈良県教育委員会の勧奨により六〇才で退職するものとすると、右六〇才時には二号俸の特五の給与(月額三四一、三二八円(ただし、教職調整額のみを含む)を受けているものと推測することができること、そして退職金を算出するには奈良県教育委員会の定めた別紙退職手当支給区分・支給割合表を利用し、退職時の給与月額に当該勤続年数に対応する数値(原告の場合は六九・三〇)を乗ずればよいことが認められる。そうすると、原告の退職金は、次のとおり金二三、六五四、〇三〇円と推定することができる。

341,328円×69.30=23,654,030円

次に右額につき年五分の割合によりホフマン方式により中間利息を控除すると、現価は四、七二七、七九一円となる。

23,654,030円÷(1.05)33=4,727,791円

ところで、〈証拠〉によると、原告が前記退職に際し退職金として金一、〇六二、一五二円を受領していることが認められるから、これを控除すると、残は三、六六五、六三九円となる。

(六)  慰藉料(入通院、後遺障害及び流産慰藉料) 金八、五〇〇、〇〇〇円

〈証拠〉を総合すると、原告は、前叙のとおり、本件受傷により二五八日間入院し、一八六日間(実日数三三日)通院して治療を受けたこと、昭和五六年八月一九日症状の固定をみたが、頭痛感、視力障害、右足の短縮、右足関節が二〇度外へ偏つた位置で固定するなど右足の機能障害等の症状を残しており、後遺障害等級は七級に当ること、原告は、本件事故当時、第二子を妊娠し三か月であつたが、本件受傷に対する治療上やむなく中絶しことが認められる。

右事実のほか本件諸般の事情を斟酌すると、原告が本件事故によつて被つたであろう精神的苦痛を慰藉するには金八、五〇〇、〇〇〇円(入通院につき二、〇〇〇、〇〇〇円、後遺障害につき六、〇〇〇、〇〇〇円、流産につき五〇〇、〇〇〇円)をもつてするのが相当と認められる。

(七)  文書料 金一二、〇〇〇円

〈証拠〉によると、請求の原因第三項(二)、(9)の文書料に関する原告の主張事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(八)  養育費 金七二二、四〇〇円

〈証拠〉によると、請求の原因第三項(二)、(10)の長女あづみの養育費に関する原告の主張事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(九)  家屋改造費 金一六五、〇〇〇円

〈証拠〉によると、原告は、本件受傷により、前記のとおり、右足の機能障害が残り、歩行能力が著しく低下したため、風呂、便所へ行つたり階段を上下するのが困難となつたので危険防止のため手すりを設ける必要が生じた。そして、右風呂、便所、階段に手すり設備をしたが、右費用として金一六五、〇〇〇円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(一〇)  将来の補助具 金八八五、二八七円

〈証拠〉によると、原告は、前記の如き右足の機能障害のため将来にわたつて補助具が必要であること、補助具については、補助具の種類、耐用年数、これを必要とする期間、交換の回数など各種の問題があるが、原告に必要とされる室内用装具、室外用装具、補高靴について、耐用年数を五年、必要とする期間三九年、八回交換するとした場合に要する費用は金八八五、二八七円となることが認められ、右認定に反する証拠はない。

将来の補助具に要する費用は、右額を下るものではないと認めるのが相当である。

(一一)  着衣損傷分

〈証拠〉によると、原告は、本件受傷の際の出血により着衣を汚損せしめられたばかりでなく、事故直後における応急処置のため医師によつて右着衣を切り裂かれたことにより、着衣が使用不能となつたので、これを廃棄したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実によれば、原告が着衣の損傷によつて損害を被つたことが認められる。しかし、原告の着衣の右損傷当時における価額が、幾何と評価せられるべきであるかについて、これを認めるに足る証拠はない。

結局、右着衣損害に関する原告の主張は理由がない。

(一二)  既払分 金一九、九一三、九二八円

被告南が、原告に対し、本件事故による損害について、治療費として金六、八九八、六〇七円及び休業補償等として金一九、九一三、九二八円、合計二六、八一二、五三五円を支払つたことは、原告と被告南との間において争いがなく、原告とその余の被告らとの間においては弁論の全趣旨により右事実を認めることができる。

しかし、原告が本訴において請求する損害額は、治療費を除く爾余の損害額についてのものであることは弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、本訴においては、治療費を除く前記額についてのみ控除分として取扱うのが相当である。

(一)ないし(一〇)の合計額から右既払分を控除すると、残は、金四四、七四四、三七八円となる。

(一三)  弁護士費用 金三、〇〇〇、〇〇〇円

本件事案の難易、訴訟追行の経過、本件請求額、前叙認容額等を斟酌して勘案すると、原告が本件訴訟代理人に対し負担するに至つた弁護士費用債務のうち、本件事故との間に相当性を有する費用は金三、〇〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(一四)  以上の損害額総計 金四七、七四四、三七八円

(一)ないし(一〇)及び(一三)の総計は右額となる。

四結語

以上のとおりとすれば、原告に対し、被告南及び被告奈良市は連帯して、損害金四七、七四四、三七八円及び弁護士費用相当分を除く内金四四、七四四、三七八円に対する不法行為の日の昭和五五年六月一日から、右費用分に相当する内金三、〇〇〇、〇〇〇円に対する不法行為の日の後である昭和六〇年二月五日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、被告関西企業は右被告らと連帯して、損害金一、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する不法行為の日の昭和五五年六月一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるというべく、原告の右被告らに対する本訴各請求は、右認定の限度において理由があるからこれを認容し、その余の各請求はいずれも失当としてこれを棄却することとし、原告の被告新田設計及び同新田土木に対する本訴各請求はいずれも失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官諸富吉嗣)

別表 逸失利益給与分計算表〈省略〉

(十二) 教育職給料表(三)〈省略〉

(十三) 運用短縮表〈省略〉

退職手当支給区分・支給割合表〈省略〉

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